急に入学式の総代を任された時のために

人生、何が起こるかわからないもので、入学式総代/副総代の名前と宣誓文の提出期限が書かれたメールが突如送られてくることもあります。 実際にそれを経験し、先日の東京大学大学院の入学式にて総代を務めさせていただきました。 依頼されたものの情報が少なく不便だったので、後任の人と物好きな人の為に体験記を残しておきます。 宣誓文全文は最後に載せます。



index

  1. 依頼を受ける
  2. 宣誓文の事前知識
  3. 宣誓文を書く
  4. 入学式までの準備
  5. 当日、式開始まで
  6. 雑記
  7. 宣誓文全文



依頼を受ける

前述の通り、メールが来ました。 研究科がにゃーんで教授会がにゃーんした結果選ばれました。 入学式/卒業式の総代の選考プロセスについては少し詳しくなりましたが、書いていいのかわからないので書きません。 流石にランダムではないですが、運も必要です。

ところで、僕の今年のおみくじの結果を確認しておきましょう。

どやどや。

選ばれると、ちょっとそわそわします。



宣誓文の事前知識

通知から締め切りまで1週間ほどでしたのであまり時間はありません。 予定の合間を縫って頑張ることになります。 宣誓は全体で5分ほどで、3分ほどの原稿(僕は4分弱話したけど)を求められます。 意外と多い。


幸いなことに近くに卒業式の総代を務めた方々がいらっしゃるので、話を伺いました。


“東大 学内広報”でググると過去の宣誓文などが(年によっては)見れることを知ります。これは重要情報。秋葉さんの答辞が載っています。 @issei_sato講師から人工知能やAIを入れると話題になるのでは、とか、社会問題(ただしタブーは避ける)を突くと良いのではというアドバイスを受けます。


僕はてっきりテンプレがあるものだと思っていたのですが、過去の宣誓文を見るとかなりポエム力を求められることがわかります。 そういえば、ググると過去の総代のブログも発見できました。



宣誓文を書く

学内広報を見ると、総代の宣誓は毎年最後であることがわかります。キャッチーで、式全体の流れとしてまとまりが出る宣誓文になるように以下を目標に宣誓文を書きました。

  • 直前までの話を回収する
  • 人工知能やAIなどのバズワードを積極的に使う
  • 中高生でもわかる文章にする

とはいえ、他の方の原稿が手に入る訳ではないので、式の流れは学内広報を読んだり卒業式の式辞をよく聞くなどして推し量りました。

ここから重要な話ですが、一度提出すると研究科長チェック, 手話の用意などと準備がどんどん進んで行ってしまうので、一度出した文章を変えることは難しいです。日本語に違和感のある部分を残したまま出してしまったので少し後悔しています。文章を書く一般的な手順(一度寝かせてしばらくたってから再度推敲するなど)を十分こなせるように余裕を持ったスケジュールで書きましょう。

宣誓文全文は最後に掲載します。



入学式までの準備

総代の人が持っているパタパタした謎の紙が式辞用紙という名前であることを知ります。 筆耕というサービスを使うとプロが代わりに書いてくれるらしいんですが見積もったら2万以上したのでやめました。 問い合わせるとどうも本部が紙の用意をしてくれるらしく、心配は不要でした。 ちなみに式当日に渡されたのはA4用紙に提出した宣誓文をそのまま印刷したものでした。 パタパタしたい人は事前に申請した方がいいかも。パタパタ。 リハーサルなどはないので、当日は直前に説明を受けて雰囲気で乗り越えていく感じになります。



当日、式開始まで

当日は情報理工の事務の方に付き添っていただいて大学から武道館まで移動しました。 入学生総代のみ音を伴うリハーサルがないので、話すときは跳ね返ってくる音の大きさで声量を調整することになります(無理)。 壇上への上がり方、礼のタイミングを確認, マイクの高さ調整のみ事前に行われます。 このとき、最後に総長との握手があることを知りました。 リハーサルで相手をしてくださった本部の方は礼→握手の間隔が短かったのですが、本番では礼の時間がゆっくりめだったので、気持ち長めに礼をした方がいいのかもしれないです(適当なことを言っています)。 また、このとき宣誓の最後に日付と名前を言うように伝えられました。 僕は本番では見事すっぽ抜かしたので、総代に選ばれた人は気をつけましょう。




雑記

人工知能、といえば日本ではPreferred Networksが有名ですね。先述の秋葉さんを筆頭に超人的な人が集まっているこのPFNですが、その夏期インターンの締め切りがもうすぐ(4/30)です。環境も待遇もとても良いので是非。

宣誓文では人工知能ブームに飛びつく姿にやや批判的な立場をとりました。巷ではコンピュータを使っているもの全てを人工知能と呼んでいる、というように揶揄されることもあります。ただ、コンピュータの方が得意なことをコンピュータに自動でやらせる動きを促進する、という点で人工知能ブームに対しては僕は比較的肯定的です(実態に直接触れていないので適当なことを言っています)。ところで、コンピュータにいかに問題を解かせるか、ということに関してはアルゴリズムの知識や運用能力が(必要な能力の一部として)問われると思うのですが、それを競う競技プログラミングと呼ばれるe-sportsがあります。日本ではAtCoderが人気で、毎週のようにコンテストが開かれています。興味を持たれた方は是非。



宣誓文全文

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本日はこのような素晴らしい入学式を挙行していただき、心より感謝申し上げます。 これから素晴らしい環境と多くの時間に恵まれて研究に集中できることを嬉しく感じています。 この様な学問に浸れる機会を与えてくださった両親をはじめ、先生方、学友に感謝の言葉を伝えたいと思います。

さて、近年では、人工知能やAIといった言葉がよく聞かれるようになりました。 それらが注目を得るきっかけの1つを担ったDeep Learningと呼ばれる手法があります。 その前身となった技術には、長く冬の時代がありました。 これを乗り越えたのは、注目を浴びることもなく、懐疑的な目を向けられようとも、直感と可能性を信じ諦めることを知らなかった先人の不断の努力でした。 私たちのこれからの研究生活も、すぐに成果が出るとも、努力が報われるとも限らない中で模索していくことになると思います。 しかし、先人の姿に学び、自身の直感や知的好奇心の指す方を信じ、徹底的に考え抜く勇気を、私たちも忘れず挑んでいきたいと思います。

また、現在、人工知能と称される技術の集合は、多岐にわたる基礎研究の上に支えられています。 そこでは、一見しただけではお互いがどの様に繋がるかがわからない多様な分野での積み上げが重要な役割を担っています。 このことは、直接は自身の研究と関係ない様に見える分野への敬意を忘れず、その英知を積極的に取り入れていくことの大切さを語りかけるかの様に感じます。 幸いなことに、ここに集う私たちは、背景も専門も多様な人によって構成されています。 分野の垣根にとらわれず、幅広い人々と多くの議論を交わすことで、互いに人類の英知をおし拡げるために邁進してゆきたいと思います。

しかし一方で、AIという単語が万能の技術であるかのように語られることには危機感も覚えます。 科学の可能性に魅せられるだけでなく、その限界とも向き合わなければなりません。 魅力的な言葉に踊らされず、着実な歩みを持って世界を牽引していくことに私たちの使命があると考えています。 そして、知の力こそがそれを支える源であり、私たちがこれからの学生生活で磨き続けなければならないものだと心得ております。

よって私は本学新入生を代表して宣誓します。 学を志す者としての矜持を常に忘れず、先人の積み上げた学知に敬意を払い、真摯な学究に努めることをここに誓います。 最後に、私自身も情報理工学の学徒として、百折不撓の精神で自らの研鑽を絶やさぬことを改めて誓い、宣誓の言葉の結びといたします。

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